殿は目下の者に使うというけどなぜ?様との違いを解説

目上に殿を使ってはダメが本当なのか考えこんでいる女性の顔

メールを含めビジネスレター、社内文書を書く機会が増えてくると、宛名につける殿と様の使い分けはどうしても解決しておきたい問題ですよね。

よくある話は、「殿は目下に対して使う言葉だから目上の人には様を使うべし」というもの。

しかし、「殿」はいろいろと誤解されている言葉でもあり、本当のところはどうなんでしょうか。

この記事では、殿と様の使い分けについてまとめます。

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殿と様の違い

小学館『日本国語大辞典』の解説によれば、

殿は
「人名、官職名などに付けて、敬意を表す。古くは、「関白殿」「清盛入道殿」などかなり身分の高い人に付けて用いたが、現代では、官庁など公の場で用いるほか、書面などでの形式的なもの、または下位の者への軽い敬称としても用いる。

様は
「人の居所、身分、氏名に添えて敬意を表す語。
室町時代から用いられ、「殿(どの)」より丁重な表現であった。」
となっています。

ざっと読んでみると、殿と様の使い方の違いが、なんとなく分かってくるのではないでしょうか。

旺文社の詳解国語辞典によれば、

「殿』
(姓名・官職名につけて)事務的な手紙や文書などで、相手に対して用いる敬称。
となっています。
例:高等学校長 殿
宛名の書き方や書面の種類によって殿を使います。
この辞書には、「または下位の者への軽い敬称としても用いる。」の一文は書かれていません。

「様」
人名・神仏名、また人格化されたものなどに添えて、敬意を表す語
例:「あなた様」【どちら様」「田中様」「仏様」
宛名が個人名になっていれば、様を使います。
様は個人名や、神、仏また人格化されたもの以外には使いません。

感謝状、表彰状など公的な文書が、個人名・団体名にかかわらず敬称に「殿」を使っているのも納得です。

以前は、役所から個人宛にだす信書は「殿」を付けるのが主流でしたが、現在では誤解の多い「殿」をやめて「様」に変わりつつあります。

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目下だから殿をつけるという決まりはない

「殿」と「様」は、一般的に次のような使い分けがされます。

どちらが格上で、どちらが格下といった理由ではなく宛名の書き方や書面の種類によって、使い分けられています。

殿と様の使い分けは、実に簡単な決まりですが、使い分けるのは面倒なことです。

ただ、「殿は目下・・・」と思っている人もいますので、「殿」と書かれ失礼だと感じる人はいるかもしれません。

しかし、「様」と書かれて、失礼だと感じる人はいないでしょう。

どちらを使うのが正しいかで迷ったら、「様」を使っておくのが無難です。

一昔前は、父親が子供宛に手紙を出す場合は「〇〇殿」とすることが多かったです。子供が親に出す場合は「〇〇様」が普通でした・

現代では、子供にも「〇〇様」と書くことが多くなったのではないでしょうか。

「殿」には誤解が多い

世間には、次のようなイメージがあるようです。

  • 「殿は敬称ではない、目上から目下の者を呼ぶ場合にしか使わない」
  • 「殿を格上の人に使うのは失礼」
  • 「目上から目下の人に対して用いるのが今日の慣行である」
  • 「殿をビジネスの場面で使うのは好ましくない」

「殿」も散々ないわれようで、まことに同情を禁じえません。

「敬称ではない」なんて意見は論外として、よく耳にするのが「殿を格上の人に使うのは失礼」という意見。

あなたも聞いたことがあるのではないですか。

でもこれって、肝心の「私信に限り」という前提の部分が抜け落ちていますから。

正しくは、「私信に限り、殿を格上の人に使うのは失礼」です。

私信ではない、公用文やビジネスの場では、格上の人に使っても失礼にはなりません。

殿は公用文や形式的な信書に多い

裁判所、検察庁、警察署などからの呼出状はほぼ間違いなく「氏名+殿」でくると聞いています。

また、いろんな大会でもらう表彰状などのほとんどが「氏名+殿」「団体名+殿」になっています。

市役所など公的機関からくる書面も、かっては「氏名+殿」でくるのが当たり前でした。

そんなことから、「殿」はお上が上から目線で庶民を見下したものであり、格下のものに対して使うものだという人がいますが、

それは国語辞典を読めば間違った認識であることがわかります。

ただ、世の中にはそう考えている人も多くいるということです。

私は、お上の上から目線とは思いません。たんに公的な信書だからなんだと思っています。

ただし、注意しなければいけないのは私的な手紙を出す場合です。

目上の人に、年賀状、暑中見舞い、お礼状などを出す場合には「殿」を使うのは失礼になるとされています。

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支店長様と支店長殿 宛名書きで正しいのはどっち?

言葉は生きており、時代とともに変化しています。

変だと思いながらも、多くの人が使っていると、やがてそれが新しいマナーになっていくこともあります。

名古屋支店長 」は、現代ではビジネスマナーにかなっているという意見がでてくるのもそのためです。

支店長という役職名に様をつけるのは国語的には間違っていても(二重敬称になるから)、実社会では認知されていくわけです。

ただ、私は、それがイヤですから、正しいと思う用法を守っていきたいと思います。

名古屋支店長 殿
支店長 加藤一郎 

どちらかにすべきです。

国立国語研究所「ことばQ&A」に、「殿」と「様」の使い分けについての質問と回答がありましたので以下ご紹介します。

質問
私は手紙や文書のあて名はもっぱら「様」を使いますが,役所などの文書では「殿」が使われていることがあります。「様」と「殿」はどのように使い分けられているのでしょうか。

回答
「様」は,男性・女性を問わず,目上・目下に関係なく,個人に対する最も一般的な敬称として広く用いられています。手紙や文書のあて名も,「様」を用いるのが一般的です。連名の場合も,敬称はそれぞれに付けます。

「殿」については,昭和27年に国語審議会が建議した「これからの敬語」で,「公用文の「殿」も「様」に統一されることが望ましい」とされたのですが,現在でも,公用文では一般に「殿」が使われています。省庁の公文書でも,あて先の敬称には「殿」を付けています。

公用文のあて名は,機関名,部局名,役職名,個人名など,種類も多く複雑ですが,機関名でも役職名でも,あて名に付ける場合には,「○○市教育委員会殿」,「国立国語研究所○○課長殿」のように,「殿」が多数派です。

このように,公用文で「殿」が引き続き使用されている背景には,「公と私の区別が明確になる」,「官職名や役職名につけてもおかしくない」などの理由があると言われています。

ただし,昭和40・50年代から,地方公共団体の中には,公用文でも「殿」をやめ,「様」にするところが出てきました。静岡県・神奈川県・愛知県・埼玉県・千葉県などが,文書の中の敬称を「殿」から「様」に切り替えました。

このような「様」への移行は,「殿」は上意下達式の尊大さを感じさせる,「殿」を用いると目下扱いにされた気持ちになる,「殿」では必要以上に堅苦しい,といった人々の意識がきっかけとなったようです。 引用元:国立国語研究所「ことばQ&A」

個人名を併記しないで、宛名を役職名だけにする場合には「殿」を使います。

様が使いたければ、「支店長 〇〇様」と個人名を併記して「様」を添えればいいのです。

様の使い方

様は、人名につけて敬意を表す語です。

性別を問わず、上司、同僚、部下に関係なく、個人に対して巾広く使える最も一般的な敬称です。

個人への手紙、メールの宛名、社内文書の宛名など、相手が個人であれば「様」を使っておけば間違いありません。

殿と様ビジネスの場ではどちらを使う?

A株式会社
営業部 田中太郎   ◯

A株式会社
営業部 田中太郎 殿  △

対外的な書面には、基本、「様」を使います。

そのほうが親近感も感じられます。

個人名に殿をつけるのは間違いではありませんが、少し堅苦しい感じとなります。

それに、「殿は目下の者に使う敬称だ」と誤解している人もいます。

対外的なビジネスの場では個人名に「殿」は使わないのが無難ですね。

「名前+役職名」の場合はどうするのか?

宛名を「田中営業部長」とした場合
宛名を「営業部長」とした場合

この場合どうするかについては、⇒役職に様や殿の敬称をつける?つけない?正しいつけ方とは!にまとめました。

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社内文書、社内メールでの使い方

議事録や報告書、社内メールなど、社内の相手にだす宛名には、「殿」が多く使われています。

社内の身内宛に書くものですから、「氏名+様」はちょっと他人行儀に過ぎると感じるのでしょう。

社長 殿
社長 東京太郎 殿
営業部長 山田太朗 殿
人事部長 殿

は、なにも問題ありません。正しい表記です。

かといって、

社長 東京太郎 
営業部長 山田太朗 

が、間違った使い方だということではありません。社内文書には「殿」が使われる場合が多いというだけです。

反対に、「様」の方が好ましいという人がいても不思議ではありません。

実際、会社によっては社外、社内を問わず敬称は「様」を使うルールがあるとか、あるいは、慣例がそうなっているというところもあります。

ローカルルールのようなものです。

多くの人が「様」を使っているのなら、その部署に属しているあいだは「様」を使えばいいんです。

そして、転職した場合には、また新しい部署のルールに従いましょう。

弁護士による「殿」の使い方

じん兵衛の親戚に若手の弁護士がいます。

この記事を修正・追記するにあたり、弁護士としての彼が、どんな敬称の使い方をしているのか聞いてみました。

おもしろいこと言ってました。

  • 争う相手となる敵には、「殿」を使う。
  • 仕事の依頼人、お願い事をする相手には、「様」を使う。

ことばを変えれば、

  • お金や要求を突きつける相手には、「殿」
  • お金をくれるお客様には、「様」

ということです。

殿と様には、こんなニュアンスの違いもあるんですね。

殿を使う時は、上目目線で相手を目下として自分の優位を表したいのでしょうかね。

ですから、自分宛ての手紙が「氏名+殿」できたりすると思わず身構えるそうです。

仕事柄そうなるのか、なにか身に覚えがあるのでしょうか。笑えます。

まとめ

「殿」と「様」は、一般的に次のような使い分けがされます。

役職名の下には・・・「殿」

個人名の下には・・・「様」

これが基本の使い方です。

しかし現代では、「様」が万能の働きをしてくれます。

使い方に迷った時は、「殿」でなく「様」を使っておくのが無難です。

役職名を併記する場合も、「役職+氏名」のかたちにして「様」を使うようにすれば悩むこともなくなりますよ。

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敬称の適切な使用